【読書日記】クローバー・レイン/大崎梢

今回の本

先日kindleの読み放題で大崎梢さんの本がラインナップにあるのを見つけ、久しぶりに大崎さんの本が読みたくなり購入しました!

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あらすじ

老舗であり大手出版社 千石社で文芸の編集部に配属され3年の工藤彰彦は、作家との約束のため夕方の喫茶店にいた。

作家は、自社の主催する『千石小説大賞』を受賞した兼業作家の男 倉田だった。

倉田は勤務先の都合で正社員から契約社員に切り替えられ、収入も減ったと噂できいた。

事前に倉田から原稿を渡されており、手直ししても良いからと依頼されていたものだ。

彰彦はこれから倉田が恐れることを言わなければならない。「すみません」と・・・

キープとして刊行日を約束せずに預かることもあるが、今回の原稿はそれさえせずにお引き取り願うものだった。

作家の生活状況が分かっているだけに伝える方も気が滅入る。

別日、一月末に他社の新人賞贈呈式に顔を出したところ、久しぶりに作家 家永嘉人を見かけた。

家永はデビューして二十数年のベテラン作家で五十をいくつか過ぎている。

家永はパーティといった華やかな場を好まず、これまで一度も見かけたことがなかったので、珍しいと思いつつ、彰彦は担当編集者でもあるので挨拶をした。

彰彦が担当になってからは作品のやりとりをしたことはなかった。

閉会後のクローク前で再び姿を見かけると、どうやら家永が困っている。

上着をクロークに預けた際に控えにもらっていた札をなくしてしまったらしい。

彰彦も一緒に探し見つけることができたものの、家永は酔いが回ったらしく足元がふらついていたためタクシーで家まで送ることにした。

家永の家に着くと、原稿が炬燵の上にあった。出版元が決まっていない作品のようで、その売込みのためにパーティに参加したようだった。

しかし、色よい返事はもらえず未だに原稿の行先は決まっていない。

彰彦に声はかかっていなかった。家永は、千石社では無理だと言う。

許可をもらい原稿を家永の家でそのまま読ませてもらった。

ラストシーンに泣き、炬燵の天板に頭をくっつけ余韻に好きなだけ浸った後に彰彦は、この巡りあわせに感謝し本にしたいと思った。

翌朝、起きてきた家永に伝えると「千石社には縁のない原稿だ。忘れてくれ」と言う。一体なぜなのか。原稿を預けてもらったが、ひとつ約束をお願いされた。

預けっぱなしは勘弁してほしい。出せないなら、なるべく早くに連絡をすること。

これまで売れっ子作家を担当していた彰彦は、まだ現実を知らなかった。

編集長に早速、家永の原稿の話をした。しかし、編集長は『時間が出来たら読んでみるよ。のんびり待っててくれ』と返す。

キープしておけと言っているのだ。心配しなくても優れた作品なら、時間がたっても色あせることはないと。

その後に先輩から詳細を聞いた。

千石社では現在の家永の原稿はノーセンキューなのだという。作品のクオリティはもちろんだが、現在ヒットしている作品がありネームバリューのある作家でなければ千石社は出さないのだそうだ。

手元にとても良い作品があるのに自社で出版できず、他社に回ることに納得が出来ない彰彦は、千石社で出版するためにあらゆる手をつくすため奔走する・・・

感想

私たちが手に取っている本が1冊できるまでに、こんな背景があったのかとその片鱗を知ることが出来ました。

編集者にとっては、星の数ほどある原稿の一つでも作家にとっては命を握られているようなもの。

そうですよね。その原稿の未来によって生活がかかっているのですから。それなのにキープとして何年も机の引き出しに眠らされては・・・

家永の本を千石社から出版するためにこれまですることのなかった他部署への根回しや営業担当とのやり取りをするのですが、それ以外に作品中に出てくる詩の許可を巡って家永の娘とのやり取りがありますが、どれも最初は「無理でしょ」と思うくらい難航しています。

彰彦のこれまでの仕事ぶりや人柄によって、一つ一つの難題がほぐれていくとき普段の仕事に対する姿勢の大切さを思い知ります。

彰彦は千石社の殿様体質に染まっていないと思っていたけれど、実はその風潮に染まっている部分もあったと気づく箇所があるのですが、読んでいてハッとさせられます。

今回の本は大きく3つの柱があります。

・家永の原稿を出版するまでの彰彦の奔走

・家永と疎遠になっている娘との結びつき

・彰彦が家永の本を読ませたい人とは

これら全ての思いが彰彦がほれ込んだ家永の『シロツメクサの頃』に詰め込まれて出版されるとき、温かい気持ちが心に満たされます。

本のタイトルである『クローバー・レイン』も最後まで読み終えると「ああ、そうだったのか」と分かるようになっています。

仕掛けがたくさんある本書は読みごたえ抜群で、本に関する小説としても面白く心を温かくしてくれる一冊でした。

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